桃の節句を過ぎ、朝夕はまだまだ冷え込む昨今ですが、花の蕾のほころびに春の足音を感じられる季節となりました。岡山空港タクシー スタッフ・A子です。
さて、今回は、岡山市東部の拠点地区「西大寺」(岡山市東区)エリアをご紹介します。当地は古くから「西大寺観音院」の門前町として、また、高瀬舟が往来した「吉井川」(岡山県東部を流れる一級河川)の河口の港町として栄えた地域です。そして、瀬戸内海の廻船や北前船が寄港する物資の集散地としても繁栄し、物流や水上交通、文化、商業の要衝として発展してきました。歴史的な建造物も多く、映画ロケ地となったレトロな町並みでも人気を集めています。さらに、2024年6月、北前船寄港地として日本遺産に追加認定されたこともあり、今、注目のエリアです。
天下の奇祭「西大寺会陽」でも有名な、地域のシンボリックな寺院「西大寺観音院」や、大正~昭和の風情が色濃く残る近隣の町並みなど定番名所から、新たな観光地として注目を集め、夏目漱石など著名な文学者とゆかりのある老舗醤油店&周辺の文学ロードまで、その魅力と見どころをたっぷりご紹介します。

▼コンテンツ
■名刹と熱気あふれる奇祭。レトロ風情と新名所。西大寺めぐり 4つの見どころ
・地域のシンボル的存在「西大寺観音院」と500年以上の歴史誇る奇祭「西大寺会陽」
・高瀬舟が往来した河港&北前船寄港地。商港としての繁栄の歴史。
・ひととき、異世界へ。セピア色が似合うノスタルジックな町並み「五福通り」
・西大寺の新たな観光地「日乃出醤油・小泉醸造元」と「金田村・漱石ロード」
■ 歴史ある醤油蔵から文化を醸成・発信!「日乃出醤油・小泉醸造元」
・西大寺地区で唯一の醸造元「日乃出醤油・小泉醸造元」とは?
・醤油蔵をリノベーション!伝統を継承しながら、新たな文化拠点を創造。
・イベント告知「第2回つやまとさいだいじ」~小麦とおやつの会~
■文学が息づく醤(ひしお)の郷。「金田村・漱石ロード」&「文学ロード」
・若かりし夏目漱石の青春の1ページ「漱石ロード」
・記念碑と句碑が建てられた「漱石ロード広場」
・漱石からさらに広がる文学のまちづくり「文学ロード」

■名刹と熱気あふれる奇祭。レトロ風情と新名所。西大寺めぐり 4つの見どころ

・地域のシンボル的存在「西大寺観音院」と500年以上の歴史誇る奇祭「西大寺会陽」

備前四十八ヶ寺の一つである「西大寺観音院」(正式名称は「金陵山西大寺」)。高野山真言宗別格本山の古刹で、751(天平勝宝3)年に周防国(現在の山口県)玖珂庄に住む藤原皆足姫(ふじわらのみなたるひめ)が、金岡の地(現在の岡山市東区金岡)に草庵を開基し、千手観音を安置したのが始まりと伝えられています。

地域の中心市街地は、崇敬を集める当寺の門前町として古くから栄え、観音院の境内に開かれた市場は、北前船等の商人や多くの旅人で賑わい、多文化交流の拠点ともなりました。境内には、銅鐘(国指定重要文化財)や西大寺三重塔(岡山県指定重要文化財)をはじめ、多くの貴重な古建築が並び、堂々とした風格と存在感を放ちます。

        西大寺観音院本堂(岡山市指定文化財)

        仁王門(国登録有形文化財)

       西大寺三重塔(岡山県指定重要文化財)

また、毎年2月の第3土曜日の夜に、天下の奇祭として全国的に有名な「西大寺会陽(はだか祭り)」が行われ、締め込み姿の男たちが福を授かるとされる2本の「宝木(しんぎ)」を求め、境内は熱気と興奮に包まれます。

       石門(国登録有形文化財)
正面には鳥居が立ち、こり取り場があり、会陽では、宝木争奪戦の前に、何度もここで冷水に入り身体を清め、福が授かるよう祈願します。

516回目を数える2025年も、約1万人の裸衆が宝木の争奪戦を繰り広げました。室町時代後期、今日の会陽の形になってから500年以上続く歴史を誇り、国の重要無形民俗文化財に指定されているこの祭り。本堂を埋め尽くす裸衆が体と体を激しくぶつけ合う勇壮な姿は、とてつもない迫力です。

西大寺観音院の詳細はこちら
https://www.saidaiji.jp/

・高瀬舟が往来した河港&北前船寄港地。商港としての繁栄の歴史。

西大寺は、高瀬舟により内陸地域との物資が流通する吉井川河口の河港として、また瀬戸内海の廻船や北前船が寄港し各地から物資が集まる内海の港町としても発展しました。そして、2024年6月、全国52番目の北前船寄港地として日本遺産に追加認定されました。
前述の「西大寺観音院」と「西大寺会陽」も追加認定された日本遺産の構成文化財です。

日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」の詳細はこちら
https://kitamae-bune.sd-machizukuri.jp/

西大寺観音院のすぐ東に流れる新堀川沿いの高瀬舟の集積地だった港まで足を延ばしてみました。岡山市の現地案内板によると、このあたりは江戸時代には吉井川の本堤で西大寺の港として栄え、高瀬舟から運ばれた物資を保管する問屋の倉が河岸に立て並び、「浜倉」と呼ばれていたそうです。

吉井川に注ぐ「新堀川」。高瀬舟が往来した往時を偲ばせる川景色。

高瀬舟の目標となった「浜倉の榎」。舟をつなぐのにも利用されていたそうです。3階建ての建物より高くそびえ立っています。川向う右手には西大寺観音院が。

商港の賑わいの面影を今も残す佇まいに郷愁を誘われます。

・ひととき、異世界へ。セピア色が似合うノスタルジックな町並み「五福通り」

西大寺観音院の境内から少し北に歩くと、まるで昭和から時が止まったようなセピア色が似合う町並み、通称「五福通り」が現れます。五福通りの「五福」とは、人生の五種の幸福、寿(寿命が長いこと)、富(財力が豊かなこと)、康寧(無病なこと)、好徳(徳を好むこと)、終年(天命をもって終わること)だそうです。西大寺会陽で裸衆が奪い合う宝木は、この五福を授ける意味で与えられたことから、この通りが「五福通り」と呼ばれるようになったといわれています。


独特の雰囲気を醸す町並みの特徴は、「看板建築」と呼ばれる、関東大震災後に商店などに用いられた、かつての町屋に代わる洋風の外観を持った建築様式で建てられた商家が軒を連ねていること。看板のような平坦な壁を利用し、その壁面があたかもキャンバスであるかのように自由な造形がなされていることから「看板建築」と名付けられたそうです。

そのノスタルジックな町並みは、映画やドラマのロケ地になった場所としても有名です。
(ドラマ「この世界の片隅に」、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」など)

五福通りの歴史館「五福座」。ロケ地として使用された映画やドラマのパンフレットで彩られています。

緩やかにS字にカーブする商店街に佇めば、カラフルな風車やアールデコ風の装飾柱が目を惹き、洋と和、江戸・明治・大正・昭和、様々な時代の匂いが共存する、非現実のような不思議な空気感に包まれます。時にはそんな風景の中に身を置いてみるのもなかなか良いものです。ひととき、異世界へタイムトリップしてみませんか?

・西大寺の新たな観光地「日乃出醤油・小泉醸造元」と「金田村・漱石ロード」

日本遺産追加認定で盛り上がる西大寺で、今新たな観光地として注目されているのが、明治11年創業、北前船が寄港していた時代にリアルタイムで営業し、夏目漱石など著名な文学者とゆかりのある老舗醤油店&周辺の文学ロードです。
(「日乃出醤油・小泉醸造元」と「金田村・漱石ロード」の詳細は次のセクションへ)

岡山空港から「西大寺観音院」までのタクシー所要時間と運賃

高速道経由      所要時間:約55分  料金:約15,000円
2号線バイパス経由 所要時間:約60分  料金:約13,000円

 ※当日の交通状況により多少前後しますので、ご了承ください。




■歴史ある醤油蔵から文化を醸成・発信!「日乃出醤油・小泉醸造元」

・西大寺地区で唯一の醸造元「日乃出醤油・小泉醸造元」とは?

のどかな田園風景が広がる岡山市東区金田。穏やかな景色に溶け込む風格のある醤油蔵があります。1878(明治11)年創業、西大寺地区で唯一の醸造元「日乃出醤油・小泉醸造元」です。


創業以来変わらぬまろやかな甘口醤油は、地域の人に親しまれ、また、時代に合せて新たな商品の開発にも力を注いでいます。
蔵元の場所が文豪・夏目漱石の若き日のゆかりの地ということから、漱石の足跡を伝える顕彰活動や文学が息づくまちづくりにも取り組まれています。


併設する店舗では、看板商品の「こいくちしょうゆ(福)」のほか、たまごかけごはんが大好物だったという夏目漱石にちなんだ商品「吾輩のたまごかけごはんしょうゆ」なども販売しています。

日乃出醤油の5代目、代表取締役の小泉 真さんです。携えていらっしゃるのが、看板商品の「こいくちしょうゆ(福)」です。

・醤油蔵をリノベーション!伝統を継承しながら、新たな文化拠点を創造。

以前醤油づくりをしていた3棟の醤油蔵を大改修し、2棟はコンサートやマルシェ、展覧会などのイベントに活用しています。また1棟は透明のアクリルガラスで仕切り、醤油樽39個を展示し、醤油の製造をイメージできるような造りに。

イベントに活用される「醤油蔵ホール」。梁や柱には創業当時から培われてきた「蔵付酵母」が張り付き、静かな威厳を放ちます。隣接の「醤油蔵ミュージアム」がアクリルガラス越しに眺められます。

「醤油蔵ミュージアム」。年季の入った杉樽がズラリと並んだ姿は壮観です。

もう1棟のイベントスペース。創業当時の醤油樽を間近で見て触れることができます。

やさしい陽光が差し込み、木戸口からは季節を映す田園風景が垣間見えます。その空間に身を置くと、何だか懐かしく、おだやかな気持ちに包まれます。

高さ約2m、直径1.8mの杉樽。横に並んで記念撮影も出来ます。背よりも大きな、見上げるほどのその巨大さに圧倒されます。

「蔵ホール」には、貴重な創業当時の小泉醸造場の絵地図も展示されていました。

左上に描かれている「九蟠倉庫」のすぐそばが、九蟠港の北前船の船着き場だったそうです。
また、川柳会の与謝野晶子と称され現代川柳の一時代を築いた時実新子は、九蟠倉庫の隣に生家があり、この地で少女時代を過ごしました。ふるさとのことを綴った手紙に醤油蔵のことが記されているそうです。漱石のエピソードしかり、文学者と深いゆかりのある場所なのですね。

再生され様々なイベントに活用されている蔵空間からは、「地域で愛された蔵元だからこそ、その伝統を継承しながら、地域活性化拠点としてさらに進化させたい」という郷土愛と意気込みが伝わってきます。
(※醤油蔵見学は完全予約制です。TEL: 086-948-2352

・イベント告知「第2回つやまとさいだいじ」~小麦とおやつの会~

今ホットな文化発信基地・醤油蔵ホールで、近日開催の興味深いイベントをご紹介します!
北前船寄港地として日本遺産に認定された「西大寺」、北前船から高瀬舟に荷を乗せ換え、吉井川を伝って物流の行き来をしていた「津山」。重要な拠点として繋がっていたふたつの地域を結ぶ新たなマーケット。昨年日本遺産に追加認定された翌日に開催され、3,000人を超える来場者で大盛況だったイベントの第2弾です。実は小麦のつながりもある津山と西大寺。第2回のテーマは「小麦とおやつ」です。

昨年のイベントレポートはこちらから(地域情報サイト「まいぷれ」)
https://okayama.mypl.net/article/tsuyama-saidaiji_okayama/88823

歴史ある醤油蔵の空気感を感じながら、田園風景とともに味わうとびきりのごちそう。心も満たされる豊かな時間をぜひ!

第2回 つやまとさいだいじ ~小麦とおやつの会~
2025年3月20日(木祝)10:00~15:00
会場:日乃出醤油 蔵ホール(岡山市東区金田1901)
雨天決行
問い合わせ先:日乃出醤油(有) TEL:086-948-2352



       つやまとさいだいじチラシPDF

イベントの詳細はこちらから(地域情報サイト「まいぷれ」)
https://higashi-okayama.mypl.net/article/tsuyama-saidaiji_okayama

「日乃出醤油・小泉醸造元」の詳細はこちら(地域情報サイト「まいぷれ」)
https://higashi-okayama.mypl.net/shop/00000351722/

■文学が息づく醤(ひしお)の郷。「金田村・漱石ロード」&「文学ロード」

・若かりし夏目漱石の青春の1ページ「漱石ロード」


日乃出醤油・小泉醸造元のすぐ前の通りは、「金田村・漱石ロード」と呼ばれています。


夏目金之助(のちの漱石)は、明治25年7月、大学の夏休み中、親友の正岡子規とともに関西方面の旅行を楽しんだ後、約1ヶ月間岡山に滞在、そのうち3泊4日で金田村(現在の東区金田)を訪れ、しばしのバカンスを過ごしました。滞在した元兄嫁の再婚先である岸本家は、日乃出醤油・小泉醸造元のほど近くにあります。吉井川干潟でハマグリを採り、とったハマグリをふんどしに包んで持ち帰ったというユニークなエピソードが目撃された場所が、まさに日乃出醤油の前の通りなのです。漱石が歩んだであろう、楽しかったひと夏の足取りを結んだ道ということで「漱石ロード」と名付けられました。

エピソードが目撃された場所に案内板が設置されています。

・記念碑と句碑が建てられた「漱石ロード広場」

漱石が滞在した元兄嫁・小勝の再婚先である旧岸本家(漱石ロードの起点)の前に、夏目金之助(漱石)・岸本小勝の記念碑と、漱石が正岡子規に送った句の碑が建てられ「漱石ロード広場」として整備されています。日乃出醤油・小泉醸造元の前の道を進むとすぐ見えます。

夏目漱石の次兄・臼井直則は、当時の勤務先の岡山電信局の近隣に住んでいた片岡家の長女・小勝(かつ)と結婚し、その後、直則の東京転勤のため、夫婦で夏目家に住み込みました。明治18年から病気療養で実家に帰っていた漱石と数か月間ともに暮らし、小勝は4歳年下の漱石を大変可愛がりました。明治20年、直則と死別した小勝は、岡山の片岡家に帰った後、金田村(現在の東区金田)の医師・岸本昌平と結婚しました。その小勝の再婚先が、日乃出醤油のすぐそばにかつてあった「岸本家」なのです。

漱石ロードの出発点であるこの場所(旧岸本家前)から、日乃出醤油の前を通って、帰着点の漱石がハマグリを採った吉井川の干潟(旧幸西渡し)までの道のりが「漱石ロード」です。

       漱石と小勝の記念碑。

漱石が正岡子規に宛てて詠んだ句が刻まれた句碑。顔ハメができます。

漱石が岡山滞在中に親友・正岡子規からもらった手紙(「学年末試験に落第したので大学を辞める」という内容)に対して、退学を思いとどまるよう書いた返事に添えて、励ましの気持ちを込めてこの句を送ったというエピソードが残されています。
「鳴くならば 満月になけ ほととぎす」
満月とは卒業を意味し、ほととぎすとは正岡子規のこと。「同じ泣くのなら、諦めて泣くのではなく、卒業して嬉し泣きしなさい」と子規を励ます句です。その直後、旭川の氾濫による大洪水で被災するなど、青春時代に訪れた岡山で様々な経験をし、岡山で過ごした日々は、深く漱石の心に刻まれたことでしょう。

こうして記念碑や句碑という形になって目にすると、漱石がまだ漱石となる前の、岡山での楽しい青春のひとコマや正岡子規との友情など、知られざる逸話が鮮やかによみがえります。

・漱石からさらに広がる文学のまちづくり「文学ロード」

当地は、夏目漱石だけでなく、著名な文学者とゆかりのある文学の町です。正岡子規の岡山での愛弟子・赤木格堂は、児島湾をはさんで南の児島郡小串村(現在の岡山市南区)出身で、小泉家は親戚筋にあたるそうです。

また、前述の日乃出醤油記事でも触れましたが、川柳会の与謝野晶子と称され女性の情念を鮮烈に表現した時実新子は、日乃出醤油・九蟠倉庫の隣に生家があり、ふるさとのことを綴った手紙に醤油蔵のことを記しています。そしてこのたび「川柳作家・エッセイスト 時実新子句碑」が生誕地に建立されました。

「手に掬い 手からこぼして 吉井川」の句が彫られています。

日乃出醤油・小泉醸造元を起点に、この句碑までの道が「文学ロード」と銘打たれ、「文学のまち」として新たな息吹をもたらしています。
「ユネスコ創造都市ネットワーク」の加盟都市に認定され、「文学創造都市おかやま」を推進する岡山市。その気運が西大寺金田地区でも熱く盛り上がっています!

瀬戸内国際芸術祭の舞台にもなるアートの島「犬島」へのアクセスも良好な西大寺。
ぜひ歴史散策や町並みめぐり、醤油蔵見学とともに文学の旅はいかがでしょうか?

アニメソング界で活躍する岡山市西大寺出身の音楽ユニット「angela(アンジェラ)」が制作した古里への応援歌「OK!岡山」のミュージックビデオ(MV)が話題沸騰中です。
「西大寺観音院」や「五福通り」、「日乃出醤油・小泉醸造元 蔵ホール」も登場します!
応援歌「OK!岡山」(angelaとはなわくん)のMusic Clipはこちらから。
https://www.youtube.com/watch?v=IWtNseSbNpc

岡山空港から「日乃出醤油・小泉醸造元」までのタクシー所要時間と運賃

2号線バイパス経由 所要時間:約60分  料金:約13,200円

 ※当日の交通状況により多少前後しますので、ご了承ください。

特別協力:岡山市観光振興課
     岡山市プロモーション・MICE推進課
(記事作成にあたり、ご協力いただきました。)

岡山市公式観光情報サイト
https://okayama-kanko.net/sightseeing/

※掲載の情報は2025年3月1日現在のものです。